2010年6月26日土曜日

Jane , a woman to love









世界的霊長類学者の Jane Goodall ジェーン・グドール博士。
そして、
絵本作家の Tasha Tudor ターシャ・テューダー。

敬愛し、憧れてやまない女性です。
お二人に共通するのは、俗世間から隔絶された場所での孤独を愛する生き方。
どの年齢においても、聡明な少女のようであり、叡智を備えた老女のようでもある、静かな澄んだ瞳。
そのクールな佇まいとは裏腹の、自然や動物への深い理解と愛情・情熱には、偉大なる「グレートマザー」を感じます。

ジェーン・グドール博士。
幼いころから一人でいることと動物が大好きな少女だったグドール博士は、後にアフリカ・タンザニア奥地の森で、何十年と霊長類の観察と研究に明け暮れます。
野生動物への憧れと共に、思春期には殉教者に憧れたという哲学的な少女は、森の中という俗世と無縁の生活にも強い憧憬を抱いたといいます。
自然や動物との対話を求める背景には、自身の存在意義を探るための霊的な体験への希求がありました。
森での体験について、博士は自伝の中でこう述べられています。
「動物や植物、山や川に身をすりよせていけばいくほど、私は自己の核心に近づき、あたり全体に遍満する霊的な力を感じとることができるようになった。」

自身の内側へと向うため、瞑想するため。
自己を知るために自然や動物が必要であったというくだりは、個人的にとても興味深いものです。
が、今回はその人格について心理学的なお話を。

チンパンジーを一日中、何年も観察し続けるというなみなみならぬ動物への関心は、その先で自己、大きくはヒトという存在の意味へと帰結します。
ユングのタイプ論でいえば、その興味のベクトルが外界ではなく、自身の内側へと向かう、典型的な内向型タイプの女性だといえるでしょう。
またパーソナリティ障害の本では、グドール博士が次のように紹介されています。
対人接触を求めない、清貧のヒト。シゾイド(統合失調質)パーソナリティ。


『回避性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害の引きこもりが、本当は対人接触を求めているが、傷つけられるのを避けるために行われるのに対して、シゾイドパーソナリティ障害の場合は、対人接触よりも、孤独な環境のほうが本来好きであるという点に特徴がある。

シゾイドパーソナリティの人は、静かで淡々とした生活を好む。
…物質的なものよりも、精神的で、内面的な価値に重きを置く。俗世になじまない、世捨て人のような雰囲気があるのだ。

己の世界への(他者の)侵害を恐れる。
…他人に対して壁を作ることで、自分を守っている。逆にいえばそれだけ自我の殻がデリケートで、脆いのである。このタイプの人にとって孤独な場所というのは、非常に大切なもので、誰にも立ち入ってほしくない聖域なのである。
(「パーソナリティ障害」 岡田尊司 PHP新書 2004年 )』

岡田氏は、パーソナリティの問題と社会的な適応の関連性において、グドール博士をシゾイドパーソナリティを最大限に生かした人だと述べています。
また「シゾイドパーソナリティの人は、自分の天性を否定したり、無理やり変える必要はなく、その長所を生かすべきだ。…無理に社交的にふるまおうとしたり、世俗的な成功や出世をめざすのではなく、自分の特性を知り、それに合ったライフスタイルや職業を選ぶことが、楽しみながら成功するポイントである。」といいます。

そして現在。
JGI Jane Goodall Institute Japan の報告によると、グドール博士は森を出て、現在アフリカのチンパンジーたちが直面している絶滅の危機を一人でも多くの人に知ってもらい、保護活動への参加を呼びかけるため、世界中を飛び回っています。
その献身的な活動により、2002年には国連平和大使に任命されています。

http://www.jgi-japan.org/

「私が今も静かな森の中で,チンパンジーという素晴らしい生き物達と平和に暮らしていると思っている人がたくさんいます。実際この森は私の心の大部分を占めています。しかしチンパンジーがアフリカ全土で数を減らしていることに気付いたとき,この森を去って,保護活動に身を捧げることを決心したのです。それ以来同じ場所に3週間以上とどまったことはありません。大好きなこの森にいられる時間もせいぜい2週間です。」

ハードなスケジュールをこなし、世界の様々な場所で多くの人に囲まれ微笑む博士の姿は、その周りだけそのまま森を切りとってきたかのような静寂が漂います。
孤独な森の中での生活から、都会で多くの人と接し、自己を主張する役割へ。
シゾイド的資質を活かした自己実現と、一面的なシゾイド的資質という壁を越えた新たな自己の統一。
若くして単身ジャングルへと足を踏み入れた情熱も然ることながら、人生後半に再び冒険へと踏み出された情熱は、誰もが持ちえるものではありません。
世俗的な価値観に惑うことのない生き方は、少女でもあり、老女でもある美しい瞳の所以です。

そしてその大いなる変容を可能にしたのは、森の動物たちとの揺るぎない絆ではないでしょうか。
チンパンジーたちの母であり、親友でもあるジェーン。
両者の心は、どこにいても、一時も離れることはないのだと思います。
時間や空間を超えた交流を可能にする霊的な力。
博士は少女の頃にその能力を動物の中に感じ、無意識的に求めていたのでしょう。
シゾイドタイプの人が孤独に強く見えるのは、人との繋がりという危うさや脆さを拒否するかわりに、人ではないものとの確固たる繋がりを信じているからかも知れません。

2010年6月24日木曜日

Hydrangea




緑が雨に濡れ、清々しいこの季節。
太陽が恋しい時もあるけれど、慌ただしい日常で、静かな雨音や水滴は心を静めます。
そしてひときわ目を惹くのは、アジサイの美しい青。
アジサイには大切な思い出があります。
幼稚園だった娘が、母の日に贈ってくれたのがアジサイの鉢植えでした。
別々に暮らす父親をお花屋さんに連れて行き、私の一番好きな花を買ってもらう…
アジサイの鉢を抱えた娘は、意気揚々と笑顔で帰宅しました。
家庭の状況を受け入れ、傷ついた心を抱えながらのその純粋な優しさを私は一生忘れないでしょう。

娘が贈ってくれたアジサイは、年々より大きく美しい花を咲かせ、私たちの心を満たしてくれました。
ブルーが映えるよう、アンティークレンガで花壇を手作りしたのも楽しい思い出です。

現在の家に移った最初の初夏、私はまた玄関先にアジサイを植え替えました。
まだ小さなそのアジサイは、私に大切なことを思い出させてくれます。
反抗と依存のバランスを取りながら、自立への準備期間を迎えた思春期の娘。
時に混沌に戸惑うティーンエイジャーの心の、美しさと優しさだけを見つめるようにと。