



故郷を離れていた十数年間、私には、日に何度も心に立ち上る風景がありました。
それは、れんげ畑と田植を終えた水田の風景。
幼い頃の遊び場です。
一昨年帰郷し、その風景にもう一度出会えた時、忘れかけていた記憶が鮮明に蘇りました。
れんげ草、シロツメグサ、オオイヌノフグリ(別名ホシノヒトミ)…
小さな野の花が広がる田んぼや、まだアスファルトに覆われていないあぜ道に吹く暖かな風。
体をとりまく日向の匂い。
草の上に寝そべった時のひんやりした感触と眩しい空。
ハチ、アブラムシ、テントウムシが手を這う感触。
記憶はすべて、身体的な感覚と結びついています。
風景が何度も心に立ち上ったのは、私がその身体的な感覚を求めていたからに他なりません。
この季節には毎日のようにれんげ草やシロツメグサを摘み、ブーケや首飾りを作りました。
四つ葉を探し、見つからない時は一枚葉っぱを付けたすという苦肉の策も。
不思議なのは、あの頃の時間の感覚です。
今思えば、放課後から夕食までの2,3時間だったのでしょう。
けれどもその記憶には、時間の感覚がありません。
飽きることもなく、ただひたすら田んぼにしゃがみ込み、暗くなったら立ち上がる。
子どもの頃は、「今」だけを生きていました。
心と体に刻まれた、「永遠の一瞬」です。
ブーケを作り家に帰ると、母はいつもコップに水を入れ、テーブルに飾ってくれました。
でも野の花はすぐに萎れてしまいます。
私はその花束をゴミ箱に捨てられず、結局元の場所に。
お花摘みや虫取り。
自然を相手にした遊びには、いつも少しだけ罪悪感を伴いました。
自然界で強く生きているのに、花瓶や虫籠の中では死んでしまう…
そんな小さな命の強く儚い美しさを、この先も私の心は求め続けるのだと思います。
れんげ草。
花言葉は、「あなたの幸せ」「あなたは私の苦痛を和らげる」「感化」
クローバー、シロツメグサ。
「幸福」「約束」
ホシノヒトミ。
「神聖」「清らか」「信頼」「誠実」
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