2010年4月8日木曜日

春の日






故郷を離れていた十数年間、私には、日に何度も心に立ち上る風景がありました。
それは、れんげ畑と田植を終えた水田の風景。
幼い頃の遊び場です。
一昨年帰郷し、その風景にもう一度出会えた時、忘れかけていた記憶が鮮明に蘇りました。

れんげ草、シロツメグサ、オオイヌノフグリ(別名ホシノヒトミ)…
小さな野の花が広がる田んぼや、まだアスファルトに覆われていないあぜ道に吹く暖かな風。
体をとりまく日向の匂い。
草の上に寝そべった時のひんやりした感触と眩しい空。
ハチ、アブラムシ、テントウムシが手を這う感触。
記憶はすべて、身体的な感覚と結びついています。
風景が何度も心に立ち上ったのは、私がその身体的な感覚を求めていたからに他なりません。

この季節には毎日のようにれんげ草やシロツメグサを摘み、ブーケや首飾りを作りました。
四つ葉を探し、見つからない時は一枚葉っぱを付けたすという苦肉の策も。

不思議なのは、あの頃の時間の感覚です。
今思えば、放課後から夕食までの2,3時間だったのでしょう。
けれどもその記憶には、時間の感覚がありません。
飽きることもなく、ただひたすら田んぼにしゃがみ込み、暗くなったら立ち上がる。
子どもの頃は、「今」だけを生きていました。
心と体に刻まれた、「永遠の一瞬」です。

ブーケを作り家に帰ると、母はいつもコップに水を入れ、テーブルに飾ってくれました。
でも野の花はすぐに萎れてしまいます。
私はその花束をゴミ箱に捨てられず、結局元の場所に。
お花摘みや虫取り。
自然を相手にした遊びには、いつも少しだけ罪悪感を伴いました。
自然界で強く生きているのに、花瓶や虫籠の中では死んでしまう…
そんな小さな命の強く儚い美しさを、この先も私の心は求め続けるのだと思います。

れんげ草。
花言葉は、「あなたの幸せ」「あなたは私の苦痛を和らげる」「感化」

クローバー、シロツメグサ。
「幸福」「約束」

ホシノヒトミ。
「神聖」「清らか」「信頼」「誠実」

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